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久遠先生を恨んだのは初めてだった。
あの日から、まともに口を利かなくなって今日に至る。
その状況で、守人の久遠先生の仕事に付いていけ、なんて。
「清水さん! 道行の気持ちを尊重して」
「こいつは自分から俺たちに近付こうとしているんですよ? だったら、俺たちが目にする事象は教えてやりましょう。俺なら、なまじっかの優しさは与えない」
挑むような口調で久遠を制すると、秋世は道行に向き直る。
「お前は先生に付いて、その仕事を離れて見るだけでいい」
「俺がやることは?」
「ない。むしろ、何が起きても手を出すな。霊験どころか近付くことすら駄目だからな」
見る者を圧倒しそうな程に、秋世の表情は厳しい。
一体俺は何を目にするのか?
そんな疑問は飲み込んで、
「分かりました」
覚悟を一言に込めた道行に、「よし」と秋世は応じた。
「俺はここに残って仕事があるからな。危ない時は自分の身を最初に守れよ」
不安と恐怖を胸に秘めたままだが、道行は久遠と共に階段を降りる。
「先生ェ!」
秋世の声で久遠が振り返った。
「気を付けてくださいよ」
頭巾がわずかに動いた。頷いたのだろう。
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