うみのかみ

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「先生の仕事に同行させりゃいいんじゃないですか?」  診療所の縁側で、秋世が久遠に提案を持ちかけた。  道行が久遠に問いを投げかけ、信頼が地に落ちた数日後の昼過ぎのことである。  守人の仕事が無い日の久遠は家を診療所にするので、同居人は出払ってしまう。  患者が少ない時間に、昨日も道行と仕事をした秋世が訪問してきた。  偶然ではないと、久遠も分かっていた。 「私は、あんな光景を見せたくない」  黒い布の奥から、自分の思いを告げた。 「守人が目にする事象は、人々の日常のそばで存在している。それを隠すことも、守人の役目だ」 「ええ。神様を科学に当てはめたら、なんて考えただけでも大混乱が目に浮かびます」  秋世は軽口の喋り方をするが、その発言の言わんとすることは、久遠も理解している。 「雨宮さんだって」  久遠は陰陽頭(おんみょうのかみ)を引き合いに出した。 「あの子だって、普通に生きる権利はある。守人の存在が必要な時代じゃなければ、こちら側の世界を知らずに済んだ」  固く握り締める膝の上の手が、頭巾の奥の自責と後悔の表情を示すようだ。 「雨宮さんは耐えることが出来たのかもしれない。だが、道行もそうとは限らないよ」 「あのねぇ、先生」秋世が口を挟んだ。 「世の中怖いモンだらけですから。それでビビるだけの奴なら、持ってる霊験で何かしようなんて考えません」  覆面越しの声が止む。
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