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「吉川さん」
桜花が道行に歩み寄って、白い狩衣の袖がふわりと揺れた。
「これから見るものは人に語らず、気に病まないでいると誓えますか?」
前にかけられた言葉と似ていた。
「誓います」
透徹とした瞳の前に平静な態度を保つが、道行の身体は凍えたように震えていた。
それでも、桜花には問題無かった。覚悟が本物だから充分だ。
彼女は柔らかく微笑む。
「貴方を怖い目には遭わせません。私が守りますから」
優しく言うと、道行の視界を右手で塞いだ。
桜花は短く囁くと右手をどけて、びっくりした顔を外に出した。
だが、道行は別の理由でも驚くことになる。
海の上の空が、埃のような灰色の雲に覆われていた。
今日は雨の予報は無いはずなのに。
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