うみのかみ

11/19
前へ
/165ページ
次へ
 陽光が入る寺の本堂の中で、人の形をしたものが一つ、仰向けで大の字に寝ている。  着物も袴も、頭を覆う布も白い。 「みつやん、何で顔に布かけてんだ?」  放り出していた右手で顔布を剥がして、千代はむくりと起き上がった。 「いらないですか?」 「要らんよ」  秋世は答えつつも、開いている戸を閉めに行った。  千代は落ち込んだ顔で、布を眺める。 「もう死にたいです」 「今度はどうしたぁ?」 「先生に、酷い言い方したんです。道ニキと私に本心を言葉にしてくれないから」  概要を察した秋世が「あー」と声を上げる。 「とうとう言ったか」 「でも、私、先生を責め立ててばかりで、先生は心配でそうするの分かってたはずなのに。キレながら話す必要無いのに、また……」  罪悪感から自白するような千代の言葉を、うんうん頷きながら秋世は受け止める。  全ての戸が閉められた堂の中は薄暗くなる。 「なんかよー、まるで先生がみつやんに怒られて死んだような言い草だな」 「先生死んではないですけど、でも、一時の感情で人を傷付ける言い方を選ぶ自分が嫌で。懺悔する位なら言うな、ってことですけど」 「ま、先生は言霊(ことだま)じゃお陀仏(だぶつ)しねえよ」  軽口に少し不満そうな顔をした千代に構わず、秋世は壁に沿って歩く。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加