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「吉川に言ったんだよ。先生の言葉で答えてもらえよ、って」
「清水さんの差し金でしたか。ま、道ニキはあんな風な質問の仕方しないですからね」
「へえ」
「時折、あいつが馬鹿に思えます。私もですけどね。どっちも先生に騙され……ごまかされていましたから」
大した違いの無い言い換えに、秋世が噴き出した。千代はむっとしながら続ける。
「でも何が悔しいって、道ニキと私は歳も同じで悩みも似ているのに、あいつは一歩先を進んじゃうんです」
「そうなのか?」
「はい。いじめられても腐らず仕事を探した。必要な勉強を面倒がらない。この前の先生とのケンカだって、汚い罵倒をしないんです」
離れた位置で足を止めた秋世に、声を大きくした千代は話し続ける。
「私は疑問持たずに、はい、そうですか、なとこをさ、自分から聞けた道ニキは凄いん」
です。
千代が前触れも無く、ガクンと首を真後ろに倒して天井を仰ぎ見る。
あっ、き、ぎゃあ! ぎゃあ! あーー、あーー、あーー、あーー、あーー
妙な叫びを上げながら、千代が飛び跳ねる。
秋世は低い声で呪文を唱え出した。
絞り出された奇声と軋む床の音が移動する。
秋世は跳ねている千代に目を配りながら、呪文を続けた。
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