3人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「吉川さん。今は良い天気です」と桜花。
「雨が降りそうですが……」
目に見えたままの感想を、道行は述べた。
「私と先生と貴方以外には、青空が見えます」
道行はまばたきを繰り返した。それでも快晴は戻らない。
その時、久遠が海に飛び込んだ。
着流しを脱ぎもせずに、伸ばしきった腕から一直線に入る姿が、道行の目の端に映った。
「先生?」
さっきまで久遠が立っていた場所と、揺らぐ水面を見比べる道行に、桜花は落ち着いた声で語りかける。
「先生は溺れませんよ」
桜花に言われても、道行は静けさが戻った海を凝視せずにはいられなかった。
やがて、港から離れた深さのある水面に、黒い影が映る。
間もなく覆面をした頭が現れた。
最初のコメントを投稿しよう!