うみのかみ

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「先生……!」  戻ってきたと安堵するのも束の間、道行の目は久遠の腕の中でのたくる存在に釘付けになってしまった。  墨のように黒い大きな魚。違う。魔である。 「あれは、新しく産み落とされた魔です。非常に強い霊力を持っていますから、放てば大勢の人が苦しむでしょう」  さらりと恐ろしい事実を桜花が告げた。 「魔が増え過ぎてしまうと、あのように凶悪なものが現れてしまうのです」  桜花が道行に教えている間も、久遠は魔を抱えている。  苦戦を強いられているらしく、逃げ出そうとする魔を全身で抑えるのに必死のようだ。  きっと、魔に作用を及ぼす呪文も唱えていることは、道行も推測出来る。  だが、先生は人間だ。冷たい水の中に長く留まっていては体力が保たない。  魔は、にゅるりと形の一部を変える。  細長く伸びた部分が、久遠の首に巻き付く。  遠目でも、顔が隠れていても分かる位に、久遠は息苦しそうな動きをする。  先生を助けたい。  だからといって、俺は何も出来ない。  いや、一つだけある。
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