7人が本棚に入れています
本棚に追加
「今は見守り、祈りましょう」
前方に踏み出した道行は、微動だにしない桜花に腕を掴まれた。
道行は泣き出しそうな顔で、表情の失せた桜花に叫んだ。
「俺に霊験を使わせてください! 近くなら、あれを祓えるんです!」
少し前の道行なら、すぐに腕を振り払って海に飛び込んだ。
「霊験を使うのは止めるように頼みました」
桜花が冷淡に返した通りだ。約束を違えたくはない。
でも、このままでは――
「あのままじゃ、先生が死んでしまいます!」
「ご心配はもっともです。先生は死と隣り合わせの状況にあります」
久遠の腕の力が、かすかに緩んだ。
待っていたかのように、魔は久遠の全身を包もうとした。
道行の目が絶望で見開かれた時、久遠の背後に青い光が見えた。
最初のコメントを投稿しよう!