うみのかみ

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「よいしょ、っと……」  ずぶ濡れの久遠は、上半身の力だけで陸に上がった。  二本の脚の代わりに、瑠璃(るり)の色が貼り付いた魚の尾があった。  また、手にも所々紺碧(こんぺき)の鱗が浮き出ている。  尾の先を海に付けたまま、海岸に腰かけた。 「先生、風邪を引いてしまいます! 家から手ぬぐいを持ってきますよ」 「いや、いいんだ。人魚の肉体は水に濡れても。それより、話したいことがある」  久遠が『そばにおいで』と手を動かし、道行は一歩近くに寄る。 「怖かったかい? 道行」  強がるべきか。心配をかけないために。 「……恐ろしかったです。先生が死んでしまう気がして」 「ああ、苦しかった。千代や清水さんのおかげで事無きを得た」  空はすっかり晴れて、水面は澄んでいた。 「道行。陰陽寮の守人にも民間の祓い屋にも、私が味わったのと同じ、もしくはそれ以上の危険が近くにある。それでも、この道を選ぶかい?」  先生は守りたかったんだ。人々を、人知の超えた脅威から。  だから、隠し続けていた。
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