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七年後――
晴天の下、明治・大正の頃の日本とよく似た街で、人々が大通りを思い思いに歩く。
話し声や様々な店の色合いが、街を彩る。
その明るい道を一人の青年が走っている。
漆のように黒い瞳で前を見据え、凛々しい顔を必死の形相にしていた。
背が高く、白シャツに細身のズボンを身に着け、整えられた黒髪を振り乱しながら全速力で駆けている。
「待て!」
人の間をすり抜けながら、青年は追いかけている相手に向かって叫んだ。
青地に黒い縞の和服を着た女である。
振り返りながら後ろの様子を窺う女の目は追われる恐怖によって、と言うには異常な程見開かれている。
やがて、女は細い路地に逃げ込んだが、行き止まりで立ち往生して、追いつかれた。
「ううぅ……」
女は悔しそうに呻き、青年に向き直る。
「観念しろ」
青年は低い声で放ち、女を睨みながら一歩前に出る。
「その人から離れてもらう」
青年が言い終わると、女は急に大きく息を吸い込み、口を広げて荒い呼吸を始めた。
女の苦悶の表情を、青年は祈るように、緊張の面持ちで見つめる。
すると、女の頭上から黒い煙か墨のようなものが立ち上ってきた。
それは女から全て出ていくと、徐々に薄くなり、消えた。
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