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桜花は式神を唇に近付けて何かを囁きかけると、挟んでいる指を離した。
すると、式神が歩いている二人の目の前に浮かび、案内するように先に進み出した。
道行は驚いた顔をしながら、桜花と共に式神の後を早歩きで追う。
式神は真っ直ぐ進み続け、ある平屋の玄関の前で止まった。
「え、ここが?」
そこは道行の自宅であった。
「読んだ通りだな」
独り言ちた桜花は式神を右手で取ると、道行の方を見た。
「お邪魔しますよ、吉川さん」
「はい!」
桜花は引き戸を開けて素早く烏皮履を脱ぎ、物音が聞こえる茶の間へ急ぐ。
道行も靴を脱ぎ、桜花の後を追って茶の間に入った。
「梅! どうしたんだ?」
癖毛の女がうつ伏せになった千代の脚を自身の脇で固定しながら背に跨っていた。
道行には、千代が薄い闇に覆われているように映っている。
「千代が何かを乗り移らせてんの!」
道行の問いに答えた梅は、なおも力一杯に千代の脚を押さえている。
「勝手に体が動く! 助けてぇ!」
叫んだ千代の腕は、床を這って梅から逃れるような動きをしていた。
桜花は千代のそばで屈み、狩衣の袖の中で印を結ぶ。
次に、その手で千代の頭の上下を押さえ、上を向かせた。
向かせるや否や、千代の口から弾丸のような勢いで真っ黒なものが飛び出した。
千代の体の動きは止まり、道行にも闇は見えなくなっていた。
だが、茶の間にいる全員の目は、ちゃぶ台の上に集中することになった。
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