霊験あらたか

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 そこには前と後ろの(ひづめ)がそれぞれ人間の手足で、横腹にいくつもの人間の目が付いた黄土色の馬が浮いていたのだ。  馬は桜花に飛びかかろうとした。 「吉川さん!」  桜花の呼びかけを聞き、道行は懐から文字が書かれた札を取り出した。  陰陽寮で桜花に渡された札である。  両手で持って前に掲げると、馬が札に吸い込まれ始めた。  馬は(いなな)いて暴れるが、体が形を留めなくなり、ついに何も残らなかった。  道行は体勢を変えずに、険しい顔で虚空(こくう)を見据えている。 「吉川さん、終わりましたよ。私に札を見せて下さい」  我に返った道行は、桜花に札を手渡す。  桜花は札を一瞥(いちべつ)すると、まだ梅に乗られたままの千代に顔を向けた。 「三ツ谷さん。あの連れ帰った霊験者の方は、どこですか?」 「あの子なら(ねえ)ねと……井村(いむら)さんと一緒に外に逃げました」 「彼を追いかける必要があります」 「どうしてですか?」  立ち上がった梅が問いかけた。 「この魔は、彼と共にここへ来たのです」  桜花は玄関に向かうと烏皮履を履き、外へ出た。道行も続く。 「吉川さん。陰陽寮で教えた術を、この札にかけて下さい」  振り向いて魔を封じた札を道行に差し出す顔は、楽しそうに笑っていた。  道行はすぐさま右手で受け取った札に、左手の人差し指をピンと伸ばして押し当てる。  そして一言唱え終わると指を離し、桜花に目を向けた。 「これで良いですか?」 「ええ、これで私が使った式神のように扱えます。動き出すまで、また歩きますよ」
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