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青年は安堵の溜息をつくと、既に気が抜けてへたり込んでいた女に近づいた。
「大丈夫ですか?」
先程とは打って変わって、穏やかな声色である。
女は寝ている所を起こされたように、何が起きたか分からないという顔になった。しかし、逃げていた時の異様さは無い。
「あの、誰ですか? うちの子はどこにいるのですか?」
「お子さんは心配いりません。私があなたに憑いたものを落としている間は、友人に頼みました」
安心させるような笑みを浮かべて女に話しかける青年の後ろから、青年と同年代で似た服装の丸眼鏡をかけた男と、水色の和服を着た幼い少年が追ってきた。
「お母ちゃん!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにした少年は叫んで、女に駆け寄った。
女は少年を抱きしめて、不安を除くようにその頭を撫でながら二人の青年を見上げた。
「ありがとうございました。何とお礼を……」
「いいえ、礼には及びませんよ」
憑き物を落とした黒髪の青年が女に答えた。
「突然の出来事でしたから、気にする必要ありません」
少年を連れて追いかけてきた丸眼鏡の青年も笑顔で応じる。
女は立ち上がり深く頭を下げてから、息子とその場を立ち去った。
親子を見送る黒髪の青年は、嬉しそうな笑顔――不意に左肩を叩かれ、振り向く。
丸眼鏡の奥から苦々しそうな目付きで睨む顔があった。
「道行! お前のせいで、また、どやされるやないか!」
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