霊験あらたか

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 道行には、とてもなじみがある声だった。 「信介(しんすけ)?」  右手側にある店を見ると、道行が昨日まで勤めていた雑貨屋がある。 「参りましょう」  桜花の一声で、三人は雑貨屋に乗り込んだ。  困惑している坊主頭の少年が、丸眼鏡の青年と和服の女に心配されていた。  少年は右の手首に巻き付いた札をはがそうと引っ張っている。どうやらきつく巻き付かれて、痛みがあるらしい。  女と桜花の目が合った。 「雨宮さん! 早くはがしてあげて! 全然、取れないの!」 「封じ込めてもこうとは……急がねばなりませんね。お店の方には悪いのですが、ここで始めます。三ツ谷さん」  はい、と千代が返事をして、桜花は両手で札の貼り付いた少年の手首を包んだ。 「おい! うちの店だぞ! 何やってる!」  先程から帳場で怒鳴っているスーツの男に答えず、桜花は術を唱えた。  書かれた文字の墨が広がるように、札が全て黒になる。  黒は札から抜け出し、千代に入り込んだ。  千代は、意識が遠くに行ったような顔で立っている。  道行には千代の背負う、針山と似た形の黒い(もや)が見えていた。  千代が口を開く。 「血を、血をよこせ!」 「治せ! 治してくれぇ!」 「早く! 死にたくない!」 「ヒィィーン! ヒヒィー!」  何人もの叫びと馬の嘶きじみた奇声が、入れ替わりながら千代の口から吐き出された。  口調が代わる(たび)に、千代の動作はめまぐるしく変化する。 「うわぁ! 化け物! 出てけ!」  怯える店長を気にせず、千代は少年を睨み、譫言(うわごと)を繰り返していた。
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