6人が本棚に入れています
本棚に追加
道行には、とてもなじみがある声だった。
「信介?」
右手側にある店を見ると、道行が昨日まで勤めていた雑貨屋がある。
「参りましょう」
桜花の一声で、三人は雑貨屋に乗り込んだ。
困惑している坊主頭の少年が、丸眼鏡の青年と和服の女に心配されていた。
少年は右の手首に巻き付いた札をはがそうと引っ張っている。どうやらきつく巻き付かれて、痛みがあるらしい。
女と桜花の目が合った。
「雨宮さん! 早くはがしてあげて! 全然、取れないの!」
「封じ込めてもこうとは……急がねばなりませんね。お店の方には悪いのですが、ここで始めます。三ツ谷さん」
はい、と千代が返事をして、桜花は両手で札の貼り付いた少年の手首を包んだ。
「おい! うちの店だぞ! 何やってる!」
先程から帳場で怒鳴っているスーツの男に答えず、桜花は術を唱えた。
書かれた文字の墨が広がるように、札が全て黒になる。
黒は札から抜け出し、千代に入り込んだ。
千代は、意識が遠くに行ったような顔で立っている。
道行には千代の背負う、針山と似た形の黒い靄が見えていた。
千代が口を開く。
「血を、血をよこせ!」
「治せ! 治してくれぇ!」
「早く! 死にたくない!」
「ヒィィーン! ヒヒィー!」
何人もの叫びと馬の嘶きじみた奇声が、入れ替わりながら千代の口から吐き出された。
口調が代わる度に、千代の動作はめまぐるしく変化する。
「うわぁ! 化け物! 出てけ!」
怯える店長を気にせず、千代は少年を睨み、譫言を繰り返していた。
最初のコメントを投稿しよう!