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2.前世
「あの…!どこかで会ったことありませんか?」
そう声をかけられて振り向くと、そこには前世の恋人がいた。
俺には、前世の記憶がある。
前世の俺は、大きな何かを成し遂げたわけでもなく、優れた才能があるとかでもなく、ただただ、凡人だった。
そんな俺でも恋人ができたのは、俺の親友のおかげだ。仮にAとする。
Aは、俺のような凡人ではなく、とにかくすごい頭のいいやつだった。
おまけに性格もいいもんだから、とてもモテていた。
そんなAが、「君に紹介したい人がいる」と連れてきたのが、
俺の人生最初で最後の恋人だった。
彼女はよく気がきく人だった。付き合ってから3日で俺の身の回りの交友関係を把握。家族構成や兄弟の詳しいことまでよく知っていた。
俺が風邪をひいて休んだ時は、彼女はまだ知らないはずの
俺の家まで看病しにきてくれた。
記念日には必ずプレゼントをくれたし、頼んだこともすぐに済ませてくれる。
完璧で最高な彼女だった。
ある日、俺は電車で遠出しようと思い、駅にいた。
1番前で電車を待っていると、誰かに体当たりされたような衝撃を受けた。
バランスを崩した俺に突っ込んできたのは、全くスピードの落ちていない
電車だった。
全てがスローに見えて、俺の周りにいた人の顔が鮮明に映る。
その中に彼女はいた。見たことのないような顔で笑う彼女は、
まるで別人だった。彼女が仲良く手を繋いでいたのは、Aだった。
どちらが俺を押したのかは知らない。
俺は死んだ。
前世の記憶はそれで終わっている。
そして今、俺に声をかけてきた彼女に何を言うべきだろうか。
前世の記憶がない彼女に復讐をしても意味はない。
頭ではそうわかっていても、俺の心は許すことができなかった。
流れるように俺の家へ連れて行き、首を絞めた。
彼女は、苦しそうに悶えていたが、しばらくすると体が冷たくなっていた。
翌日、俺の家には警察が来た。
後悔はしていない。だってやりたいことは成し遂げられたのだから。
俺の家に来た警察は、抵抗もしていない俺に拳銃を向けた。
その警察は、Aだった。
体の一部に大きな衝撃が走る。
その後の記憶は残っていない。
俺は何度、輪廻転生を繰り返しているのだろう。
そして、今俺の目の前にいる、前世の記憶をもたないAを、
俺はどうするべきだろうか。
まあ今回は、平凡に生まれてきたAに気がきくいい女でも紹介してみようと思う。邪魔になったらその時はその時だからな。
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