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咲かない桜は美しかった
「この桜は、もう三年も咲いていないのだよ」
「そんなに……ですか」
僕は今近所の桜並木の、とある一本の桜の木の下にいる。この桜が咲かなくなったのは、ちょうど、僕の幼馴染の古泉咲良が病気になった、三年前だった。
不思議なことに、桜並木の中でこの一本だけが春になっても花を咲かせなくなったのだ。僕はつい、この木と咲良を重ねてしまう。彼女が病気になってから僕は何度もお見舞いに行っているけど、咲良は日に日に元気をなくしていて、笑うことも減っていった。そんな咲良を見るのは辛かった。
木の下で立ち止まる。この木を見ると呼吸が苦しくなる。僕はその幹に手を触れた。その時に、通りかかった老人に話しかけられて気づいたのだ。もう三年も経っていることに。
***
「私ね、花の中で桜が一番好きなんだ」
いつのことだったか、咲良は満開の桜の木の下で僕にそう言った。
「名前が一緒だから?」
「うん、それもある。でも、こんなに一斉に花が開くなんてすごいと思わない?」
そう言って振り返った彼女の笑顔を見て、胸がぎゅっと締め付けられたのは言うまでもない。
僕はこの瞬間、咲良に恋をした。
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