咲かない桜は美しかった

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次の日、僕は同じように桜並木を歩いていた。すると、例の木の下に何やら作業服を着た人たちが集まっていた。 僕が様子を伺っていると、そのうちの一人が僕の存在に気づいた。「何してるんですか?」と思わず聞いた。 「この桜の木だけど、今年の春が終わるまでに花が咲かなかったら、もう切り倒そうかと計画しているんだ」 「えっ」 作業服を着た人たちは、この道を管理している職員だった。もうすでに咲くめどはないと見越して、どのように切り倒すか現場検証のようなことをしているらしい。 「そんな……」 「でももう咲かないんだろう?他に木はたくさんあるから問題ないはずだ」 その人は僕には目もくれず作業を再開していた。 *** 僕は彼女の病室に急いだ。なんとなく嫌な予感がした。 「咲良!」 「あ、春樹(はるき)くん」 予想以上に元気な咲良の姿があった。今日は調子がいいのかもしれない。 「あのさ……」 僕はあの桜の木のことを話す。すると、彼女は諦めたようにこう言った。 「そりゃそうだよね。もう……咲かないんだもんね」 「………」 「私と一緒だね。私ももう長く生きられないからさ」 「……っなんでそんなこと言うんだよ!」 「桜なんて……満開に咲かなきゃ意味がないでしょ?」 「………」 「私、もういっそ死にたい。治療がきつくて、生きるのが辛いんだもん」 僕は何も言えずにただ俯いた。 『正解』の対応がわからなかった。
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