2人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
次の日、僕は同じように桜並木を歩いていた。すると、例の木の下に何やら作業服を着た人たちが集まっていた。
僕が様子を伺っていると、そのうちの一人が僕の存在に気づいた。「何してるんですか?」と思わず聞いた。
「この桜の木だけど、今年の春が終わるまでに花が咲かなかったら、もう切り倒そうかと計画しているんだ」
「えっ」
作業服を着た人たちは、この道を管理している職員だった。もうすでに咲くめどはないと見越して、どのように切り倒すか現場検証のようなことをしているらしい。
「そんな……」
「でももう咲かないんだろう?他に木はたくさんあるから問題ないはずだ」
その人は僕には目もくれず作業を再開していた。
***
僕は彼女の病室に急いだ。なんとなく嫌な予感がした。
「咲良!」
「あ、春樹くん」
予想以上に元気な咲良の姿があった。今日は調子がいいのかもしれない。
「あのさ……」
僕はあの桜の木のことを話す。すると、彼女は諦めたようにこう言った。
「そりゃそうだよね。もう……咲かないんだもんね」
「………」
「私と一緒だね。私ももう長く生きられないからさ」
「……っなんでそんなこと言うんだよ!」
「桜なんて……満開に咲かなきゃ意味がないでしょ?」
「………」
「私、もういっそ死にたい。治療がきつくて、生きるのが辛いんだもん」
僕は何も言えずにただ俯いた。
『正解』の対応がわからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!