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次の日、また桜の木の下に赴く。そしてその幹に触れ、問いかける。
……なぜあなたは咲かないのですか?
……咲かない桜は意味がないですか?
違う、
目の前を掠める薄桃色の中で、僕は確信する。
咲かない桜は、きっと綺麗だと。
***
「咲良!」
翌日、病室に飛び込んだ僕を、彼女は虚な目で見ていた。
「桜は……満開に咲かなきゃ意味がない、なんてことはない」
「どうしたの、急に」
僅かながら彼女の目に驚きの色が映った。
「満開を知っているから、満開を求めちゃうだけなんだ。だけど、満開じゃなくたって、桜は桜で、一本の木で、誰かに愛されてて、誰かの心の支えになって───っ」
途中から、あの木のことを言っているのか目の前のその人のことを言っているのか、わからなくなって、僕は口籠る。
だけど最後までちゃんと言おうと思った。
「咲かない桜はきっと綺麗だよ。僕はそんなサクラが、好きだ」
見開かれた彼女の瞳に、あの日の光景が鮮やかに映っていた。
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