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04.拾いネコ【Side:長谷川 将継】
カウンターの端。
ガタッという音に驚いて視線を転じれば、先ほどの青年が床へくず折れるのが見えて。
それと同時、ほとんど無意識に私は立ち上がっていた。
勢いよく動き過ぎたからだろう。腰掛けていた椅子が後ろへ倒れそうになったのを慌てて押さえると、大股で彼の方へ歩み寄る。
親父さんたちは折悪しく皆カウンターの中。
すぐには駆けつけられなかったから、必然的に私が一番最初に彼の身体に触れることになったのだけれど。
倒れた人間を無闇に抱き起したり揺らしたりしてはいけないと記憶の片隅にあった私は、そっと肩口に触れて声を掛けてみた。
「ねぇキミ、大丈夫かい?」
遅れて駆けつけてきた店主ら三人が、そんな私たちの様子を心配そうに見下ろして「長谷川社長、どう? ――彼、大丈夫そうかな?」と問い掛けてくる。
間近で観察してみた感じ、体温が著しく低下しているとか、呼吸が浅くなっているとか……そんな感じはしないけれど、意識がない以上大丈夫だと断言できる確証はない。
結果、何も答えられないままに床へ伏したままの彼の様子をうかがったのだけれど。
「……っ」
皆が見守る中、床上の彼から微かにうめき声のようなものが返ってきて。
咄嗟にひざをついて彼の口元に耳を近づけてみたけれど、どうやら明確な言葉を発しているわけではなさそうだった。
「実は彼ねぇー、最初に出したお通し以外の固形物、口にしてないんだよ」
親父さんの言葉に視線を上げれば、カウンターに残ったままのグラスには、ほんの少し琥珀色の液体が残っていた。
「まさか、ずっとビールだけ?」
私の言葉に店主がコクッとうなずくのを見て、はぁっと小さく吐息が漏れてしまう。
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