680人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
さすがに体調も最悪な現状で、己の息子さんのご機嫌まではうかがえそうにない。
(って言うか、この状態でよく反応出来るな、お前)
はっきり言って、私自身そっちの方がよっぽど問題だし、めちゃくちゃ驚きだと感じている。
私は若干兆し始めた下腹部に、小さく吐息を落とすと、まだしばらくは深月の可愛い寝顔を見ていたいという欲求を抑えて彼を起こすことにした。
そっと肩を揺すりながら「深月」と呼び掛けてみたのだけれど、案外しっかり眠り込んでいるらしい。
何度か同じことを繰り返さないと、深月は目を覚ましてくれなかった。
そんな風に無防備な姿を自分に見せてくれることが、またたまらなく愛しくて仕方ないと言ったら、深月は困るだろうか。
ややして「わっ」と声を上げて飛び起きた上、〝私を見守って〟いるうち、いつの間にか寝落ちしてしまったのだと言い訳をしてきた深月に、私は思わず笑ってしまう。
幼な子じゃあるまいに、ずっと見ていてくれなくても大丈夫なのに。
ましてや深月からしてみれば、私は相当に年上の男なわけで。
そんな私を、深月はどんな気持ちで見守ってくれていたんだろう?
(雛鳥の虚勢……?)
なんて失礼なことを思ってしまっただなんて、深月には言えない。
それにしても――。
風邪をこじらせた人間のすぐそば。
換気もせずに寝てしまうだなんて、不用心にも程があるではないか。
風邪に対する防衛心のなさもさることながら、貞操の危機感の低さにも不安を覚えた私は、わざと深月の手首を掴むと、彼に私のことを意識させてから「あーん」の件を持ち出してみたのだけれど――。
最初のコメントを投稿しよう!