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21.我慢と遠慮はいらない【Side:十六夜 深月】
「深月がほんの少しさじに口をつけて確認してくれたらいいんじゃねぇかな」
何でもないことのように言い放たれた将継さんの言葉に、もしかしたら彼の熱よりも温度が上がったんじゃないかというくらいに、頬に朱が散った。
(それって……間接キスになるんじゃ?)
いや、間接キスなんて可愛いものじゃないくらいの行為を先程してしまっているから、こんなに過剰反応しているのは僕だけなのかもしれないけれど。
(将継さんは……気にしてないのかな?)
心が凪ぐような穏やかな笑みを湛えている彼にきっと他意はないんだろうと、僕は手に持ったレンゲに盛られたお粥にそっと口をつけた。
「だ、大丈夫です。……熱くないですよ?」
「じゃあほら、口に運んで?」
言われるがまま、僕は朝約束した「あーん」を実行したのだけれど気恥ずかしくて仕方がなくて思わず俯いてしまう。
幾度もふぅふぅして将継さんの口にお粥を運んでいたのだけれど、その度に手が震えて思わず滑らせた指がレンゲに盛られたお粥に触れてしまって。
それを見た将継さんが、何か大事なものを触るように僕の手を取ってレンゲを取り上げて指先を口に含んだ。
「あっ……」
お粥に触れてしまったくすり指と小指に吸い付かれ、指の間の柔肉をそっと舌先で突いて唇が離れていった。
色素の薄い澄んだ瞳が徐々に熱を孕んでいく様に背筋がぞくぞくして、呼応するみたいに僕の両目も溶けだすように熱を持って。
「そんなに目を潤ませられちゃー意地悪した気分になっちまうな」
片頬を上げて笑う将継さんを僕は直視出来なくって。
「将継さんは……やっぱり意地悪です」
ポツリと俯いてこぼしたら、彼はまたククッと笑って「悪い、揶揄い過ぎた。指洗っとけな? 風邪感染っちまったら困るから」と言いながらふわりと僕の頭を撫でた。
熱があるせいだろうか頭頂部に載った手が温かくて、優しく髪を梳きながら離れていく指が名残惜しくて目を細めてしまう。
(将継さんに触られると気持ちいい……)
最初はあんなに怖かった頭を撫でられる距離感が、今は嫌じゃなくてもっと触れて欲しいと思ってしまう僕はどうしてしまったんだろう。
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