21.我慢と遠慮はいらない【Side:十六夜 深月】

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***  お粥を完食した将継(まさつぐ)さんに薬を飲ませて退室すると、僕は(もはや指定席となりつつある)薄桃色の座布団が敷かれたダイニングチェアに座ってレンジで温めた遅めの昼食にカレーを食べていたのだけれど。  先刻の彼の発言には多大な爆弾があったことを思い出して、思わず握っていたスプーンを動かす手が止まってしまった。  将継さんが先生に嫉妬?  好きな子に(くわ)えられて喜ばない男はいない?  それって――。  まるで将継さんが僕のことを好きみたいじゃないか。  軽蔑されていないということには安心したけれど、まさかそんな返事が返ってくるとは思いもしなかったから。  将継さんは少しばかり意地悪なところがあるし、大人の(僕も年齢だけなら十分大人だけど)彼にしたらこんな子供の僕はどういう対象として好きなんだろうか? (やっぱり……揶揄(からか)われてる?)  でも、もしもそれがどんな〝好き〟だったとしても嫌悪感が湧いてくるどころか、嬉しいような心が温かくなるような気がするのはどうしてだろう。  ――彼の優しさにすっかり(ほだ)されてしまったのかな?  僕はもう義父(あの男)に虐待を受けてからこっち、先生以外の人を誰一人信用できない冷たい人間になってしまったはずなのに。  誰かを信じても同情されるだけ、心の内を話したら誰もが一歩も二歩も引いて去っていくと信じて疑わなかったから、誰に対しても深入りはするまいと思って生きてきたのに。  将継さんは僕の心を()かし芽吹かせてくれるようで。  だけど――。  もしも僕の思い上がりだったら。  彼は優しいから、そんな風にフォローしてくれているだけだったら。  本当の〝冷たい僕〟を(さら)け出した途端、(てのひら)を返したように失望されてしまったらと思うと怖くて仕方がない。  将継さんにも、嫌われるのが怖い。  先生だって僕が患者だから優しくしてくれているだけであって、ひょっとしたらこの世に僕のそばに居てくれる人なんて誰もいないのかもしれない。  僕はずっと孤独なのだろうか――。
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