21.我慢と遠慮はいらない【Side:十六夜 深月】

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 カレーを食べ終えて、僕は冷蔵庫からスティック状のソーダ味のアイスを取り出すと将継(まさつぐ)さんの部屋の(ふすま)をそっと開けた。 「将継さん……」  寝ているかな?と思って静かに声を掛けると、将継さんが横になったまま「 (めし)食ったか? 深月(みづき)」と返事が返ってきたので枕元に座った。 「……はい。あの、アイス、食べますか?」  問いかけると彼は半身を起こして僕の顔をじっと見つめて「その前に深月に頼みてぇーことがあんだけど」と瞳を覗き込まれたので小首を(かし)げる。 「ぼ、僕に出来ることなら……!」 「――じゃあさ、膝枕してくんね? 寝ながら食うから」 (ひ、膝枕……⁉) 「咲江(さきえ)が――亡くなった妻がよくしてくれてたんだよ。でも、寝ながらアイス食うって言ったら『お行儀が悪いですよ』って叱られるかもしんねぇけど……深月は許してくれんだろ?」  ククッと笑いながらそんなことを言われてしまって耳まで熱くしつつも、僕は礼儀よく正座して「ど、どうぞ……奥さんみたいに、柔らかくないと……思いますけど……」なんて言いながら将継さんの頭を膝にお招きした。  かしゃかしゃと音を立ててスティック状のアイスの袋を開けている将継さんをじっと見下ろしながら、所在投げに放り出されている両腕をどうしようか?と迷った末に、彼がいつもしてくれるように頭の上にふんわりと手を載せたら気持ちよさそうに目を細められた。  膝の上にある体温が心地いい。  指の中の柔らかな髪の毛がくすぐったい。 「なぁ、深月さ――私の言ってること、どこまで伝わってる? 自分で気付いてんのかわかんねぇけど、時々すげぇ寂しそうな顔してんぞ? 先生に気持ちがあるのはわかってるけど……。私は先生には出来ない方法で深月を癒してやりてぇんだ」  アイスを(かじ)りながら喋る将継さんの声は穏やかだったけれど、紡がれた言葉は噛んで含めるようだった。 「先生には出来ない方法……です、か……?」  将継さんの柔らかな髪に載せている手が少しだけ震えた。
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