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私は従業員二十名足らずの小さな建設業の会社を営んでいるのだが、うちの従業員の中にも時折こういう無茶な飲み方をする若い衆がいて、「食いながら飲め」とよく注意したりするのだ。
(人に迷惑をかけるような悪い飲み方すんなよ)
心の中でひとりごちてから、改めて足元に横たわったままの男の顔を見る。
(薄幸の美青年、か……)
苦しそうに歪められた表情がどこか儚げで、壮絶に美しく見えたと言ったら、本人は怒るだろうか。
横向きに寝そべっている彼のまつ毛はくるんとカールしていて、とても長く見えた。
(マッチ棒とか載せられそうだな)
なんて緊張感のないことを思ってしまったのは、幸いにして彼の顔色がそんなに悪くないと思えるからだろうか。
どうやら急性アルコール中毒で救急搬送が必要と言うことはなさそうだ。
「腹ん中の酒を吐き出させりゃぁきっと……少しは回復するんだろうけどねぇ……」
酔っ払いをあしらい慣れた店主の言葉にうなずいたと同時、彼が「うっ」とうめいて口元を押さえるから、私は慌てて彼を横抱きに抱え上げた。
「おっと……」
このぐらいの身長の成人男性ならこんくらいの重さかな?と思って抱き上げたら思いのほか軽くて、逆によろめいてしまう。
(ちょっと待て、いくら何でも軽すぎだろ)
華奢な身体つきをしているのはぱっと見にも分かっていた。
だがこうして直に触れてみると、その肉付きの薄さは心底心配になるほどで。
(こいつ、飯、まともに食ってんのか?)
そんなことまで思ってしまう。
──何にしてもここで吐かれちゃあ、店に迷惑が掛かる。
そう考えた私は、「トイレ、借りるよ」と親父さんに声を掛けてから、大股で店を横切って。
「頼むから少しの間、こらえろよ?」
抱き上げた状態で吐かれたら確実に私まで大惨事だ。
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