680人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
「例えばさ――先生は毎日深月のそばには居られねぇだろ? 私なら毎日一緒にいてやれる。そんな〝寂しい〟って顔に書いてるような子、放っておけるか?」
「……で、でも……」
僕の膝の上からしゃりしゃりとアイスを齧る音だけが響いて、喉が乾上がったように声が出なくて話の接ぎ穂を探そうとしたけれど見つからなくて。
黙りこくってしまった僕の膝の上から起き上がった将継さんが、真剣な眼差しで瞳を射抜いてくるから鼓動が一際高く乱打した。
「言ったよな? 先生に嫉妬してるって。深月の寂しさ埋めてやるのに私は適任だと思わねぇ? 利用しちまえよ。我慢と遠慮ならいらねぇから」
その言葉に押し止めていた感情が身体の奥底から堰を切ったように、抗いようもなく溢れ出して。
はらりと、頬に熱いくらいの水滴が伝う。
将継さんがそれを黙って指で拭ってくれて、いつの間にか木の棒だけになっていたアイスの名残を指で弄びながら僕の返事を忍耐強く待ってくれていた。
「寂しい……です……。でも、本当の僕は冷めてて……将継さんも、本当の僕を見せたら……きっと嫌いになります……。嫌われるくらいなら……一人が楽なのに……。本当は、ずっと寂しいんです……」
そんな言葉が次々こぼれ落ちて、結氷のように張り付いていた仮面にヒビが入ってほろほろと剥がれ落ちて。
僕の頭を撫でた将継さんがそっと口を開いた。
「そーいう顔、もっと見せてみ? 私に嫌われるのが怖いなんてマジで嬉しいんだけどわかんねぇか?」
「嬉しい……ですか……?」
「本当に冷てぇー人間は嫌われるのが怖いなんて言わねぇと思わね? だって自分にしか興味ねぇんだから。深月は寂しいんだろ? 冷てぇーふりして自分守ってるだけなんだと思うんだわ。だから――もう自分守んの一人で頑張んなくてよくね?」
それだけ言って赤らんだ柔い耳朶に唇を押し当てられるから、ぶわっと頬に熱が集まって僕はただただ肩を震わせて。
「将継さん……」
「ん?」
「僕、着替え一週間分持ってきました……。宿泊研修――してもいいですか……?」
将継さんがまた頭を撫でながら「期限いらねぇーけど?」なんて瞳を眇めて見せて穏やかに微笑むから、凍てついた仮面は涙の温度で簡単に融けていった。
最初のコメントを投稿しよう!