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夜になっても将継さんの熱は下がらなくて、夕食は梅粥をまた「あーん」してあげて、僕は買ってきたお弁当を食べた後、シャワーを借りて自分のスウェットに着替えた。
またリネン棚からタオルを一枚取り出して熱いお湯に浸すと、ギュッと絞って将継さんの部屋に静かに入って。
彼はもう寝息を立てていたので、そっと枕元に座って額と首筋の汗をタオルで拭うと(し、失礼します!)と心の中で呟いて脇の下の汗と腹部を清める。
さすがにズボンを下げることは憚られて逡巡した結果、膝までスウェットをまくり上げて足だけを拭いてあげた。
ジェルシートを貼り変えるとまたもや一瞬で温まってしまって、どうしよう……と途方に暮れる。
(でも、どうしようもないんだよなぁ……僕に出来るのは見守るだけだ……)
風邪が感染るから、ご飯を食べてシャワーを浴びたら僕はもう寝てろと言われていたのだけれど――。
僕は自分の部屋から布団を抱え上げて将継さんの少し離れた横に敷いてみたのだけれど、あまりに近すぎて恥ずかしくなって壁のギリギリに布団を引き寄せた。
(一緒に寝てたら怒られるかな……? でも夜中も汗拭いたりしたいし……見守ってても許されるよね? 今夜は徹夜だ!)
部屋はもう消灯されて真っ暗だったので僕も布団に包まって、暗がりの中寝息を立てている将継さんの横顔を見つめる。
(明日は熱、下がってるといいなぁ……)
ふと視線を転じると彼の奥さんの遺影が目に入って。
将継さんの心の中には奥さんとの思い出がたくさんたくさん詰まっていて、さっき膝枕を強請られたのも彼女がよくしてくれていたのだと言っていた。
僕は思わず布団から出ると仏壇の前に坐して両手を合わせる。
(将継さんの奥さん……早く将継さんの風邪を治してください……。それから……僕がそばに居ること……怒ってますか? 大切な思い出に土足で踏み込んでごめんなさい……。でも、もう少しだけ将継さんのそばに居させてください)
それだけ祈ると僕は自分の布団に包まった。
ことあるごとに出てくる将継さんの奥さんの影に、ちょっとだけ胸がちりりと痛むのは何故だろう?と思いながら僕は再び将継さんの横顔を静かに見つめた。
我慢と遠慮はいらないという優しい言葉を思い出しながら――。
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