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障子越し。
今夜は満月に近い月が出ているんだろうか。
ぼんやりと明るみを帯びた外からの光を浴びて、深月が微かな寝息を立てていた。
「……深月」
彼の寝姿を確認するなり咲江相手には一切感じたことのなかった罪悪感がふつふつと込み上げてきたのは、きっと深月が小さく縮こまるようにして眠っていたからだろう。
まるで胎児が何かから身を護りたいみたいに見えるその寝姿は、私の心を深く抉った。
身体の発育も未熟な少年の頃に深月が受けたと言う、義父からの性的虐待のせいで、こんな風にして眠る癖がついてしまったんだとしたら余りにも切ないじゃないか。
布団の中でギュッとひざを抱えるようにして丸まっていると思しき布地の膨らみに、胸が締め付けられるように痛んで。
深月をこのまま部屋の隅っこで一人にしておいてはいけないような……、そんな気持ちがふつふつと湧き起ってきた。
私は寸の間考えて、深月の敷布団の端っこを摑むと、そのままズリズリと彼が乗っかったままの布団を、部屋の中心に向かって引きずり始めた。
深月の献身的な看病のお陰だろうか。
あんなに高かった熱も、大分下がってきているようだ。
身体の気怠さも嘘のように収まっていて、深月が載った布団を引き寄せながら進む足取りにも覚束なさを感じない。
(――なぁ、深月。お前軽すぎんだろ)
何だかんだでズズーッ、ズズーッと二メートル近く移動させたと言うのに。
移動中何度か眉根を寄せて「ん……」と吐息を落としはしたものの、深月は不思議と目を覚まさなかった。
その様子に、警戒心の強そうな寝姿とのギャップを感じた私は、少し拍子抜けしてしまったくらいだ。
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