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荒い呼吸を繰り返しながら「ごめんなさい」以外の言葉を忘れてしまったんじゃないかというくらいに、繰り返し呟いていると将継さんは再び僕の額に己のそれを擦り合わせた。
鼻先に当たる眼鏡のレンズが先程はひんやりとしたけれど、今は僕の顔が熱く紅潮しているせいか心地よい温度だった。
「何で謝んの? 私は礼をしただけだけど?」
「だって……将継さん……飲み、ました……」
「深月も飲んでくれたろ? 軽蔑してないってこれでわかったか?」
たどたどしくこくりと頷くと吐精の残滓で濡れている唇を戯れのように僕の頬に押し付けられて、心臓の奥深くで何かが爆ぜたように動悸を打った。
「何か……僕……ごめんなさい……。将継さんに毎日こんな……」
(こんなのが病みつきになっちゃったらどうしよう……。将継さんにいやらしい男だって思われたらどうしよう……)
「私は深月が可愛すぎるせいでこうなっちまうんだけど? 深月、そこんとこちゃんと自覚してっか?」
「将継さんのそばにいるの……こういうことするのが目的……とか、思わないですか……?」
窺うように快楽の余熱で潤んだ瞳を向けると、将継さんは僕の下肢をティッシュで拭って下着とスウェットをきちんと履かせてくれてから優しく抱きしめてきた。
「それ――どっちかってぇと私の台詞だと思わね? 少しばかり強引に深月に近付こうとしちまってばっかでマジでごめんな? どうも深月はちゃんと捕まえとかねぇーと私のそばから消えてしまいそうで心配なんだわ」
「ぼ、僕は消えません……。でも、将継さんがこんな男……嫌だって思ったら、すぐに言ってください……。だって僕は矛盾……してるって思うんです。好きな人が居るって言ってるのに、将継さんを拒めない……。これって、ただ僕がいやらしいだけなんじゃ……」
「いやらしいんじゃなくて欲しがりなんじゃね? 深月はずっと一人で頑張って来たから温けぇもんに飢えてんだと思うんだわ。言ったろ? 私を利用しろって。そのまんまでいいから、私のそばに居て欲しいんだ。心がどっちに行くかは深月が私といる中でゆっくり決めりゃーいい。とりあえずお試し期間をもらえただけでも私としては大前進なんだけど?」
涙をこらえるためにギュッと将継さんの胸元の布地を握りしめたら、あやすように背中をトントンと叩かれて、少しだけ視界が開けていった。
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