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「え……。でも、まだ病み上がりなのに……大丈夫ですか……?」
あれから将継さんに大急ぎで口をゆすいでもらってから、すっかりピンピンしている彼と、僕が数日分ストックで買ったお惣菜で一緒に食卓を囲んだのだけれど「仕事に行く」と言い出したのだ。
「まだ完治ってわけじゃねぇかもしんねぇけど熱も引いたから問題なく動けるし、こう見えても一応社長やってっかんな。おちおち休んでもいられねぇんだわ」
「で、でも……昨日の今日で……」
「んー、早くせかせか働いて完治させて深月にキスしてぇからな」
ククッと笑われた言葉に僕は真っ赤になってしまって、それ以上言葉を紡げなくなってしまう。
「……将継さんの意地悪……」
「深月はどうする? 留守番してっか? また夕飯の買い出しとかしてきたいから少し遅くなるかもしんねぇけど。何か食いてぇもんあるか?」
「だ、だったら! 僕が買い出しして作っておきます!」
「いや、それは却下な? また私がいない間に怪我でもされちゃー困るから。――先生……に会いに行くか?」
(先生に嘘吐いちゃったし……どんな顔して会えばいいんだろう……。将継さんのこと、問い詰められたら隠し通せるかな……)
「実は昨日、僕……電話で先生に嘘吐いちゃったんです。僕が……その、反応したのは……女の子だって……。そしたら先生……ちょっと怒ってました……」
「すっげぇ今更だけど――その先生とやらは女? 男?」
「……男の……先生です。ごめんなさい……引きましたよね……」
「男の深月が好きな私がどうして引くの? あー、それだったらますます会わせたくねぇなぁ……」
将継さんが頭をガシガシ掻きながら複雑な表情をするので、僕も何だか不安に苛まれて、どうしよう……と尻込みしてしまう。
「僕は……相手が将継さんって正直に伝えた方がいいですか……?」
「私としては宣戦布告で大歓迎だけど?」
宣戦布告――。
「将継さんは……どういう意味で……僕のことが好きって、言ってくれてるんですか……?」
窺うように訊ねると、彼は琥珀色の瞳を瞬かせた。
「は? もしかしてマジで伝わってねぇの?」
確かにここまで熱心に好きだと言われたことのない(上っ面な好意なら腐るほど寄せられてきたけれど)僕は、一体将継さんが何を望んでくれているのか自分でもさっぱりわからなかったのである。
だけど、欲しがりな心は何かを淡く期待していた。
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