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深月にあんな告白をして、彼を一人にして仕事へ行くのは物凄く後ろ髪を引かれる思いだった。
だが、あそこまで本音をさらした私に、深月は「黙っていなくなったりはしません……。約束します」と答えてくれたから。
私はその言葉を信じていると態度で伝えたくて、あえて彼を残して仕事へ出た。
「社長っ! ……体調はもう大丈夫なんっすか?」
数日ぶりに会社へ行くと、つい一ヶ月ちょっと前に雇い入れたばかりの新人・石矢恭司が、真っ先にそう声を上げて駆け寄ってきた。
まぁ他の面子は現場が遠くて各々早くから出てしまっていると言うのもあるのだが――。
さてこの石矢と言う男。一見人懐っこいタイプのようだが、実際のところ私はまだ、彼のことをよく把握しきれていない。
現在十八歳の石矢は、十六の時に傷害致死事件を起こして捕まった前科を持つ。
何でも別れを切り出してきた四つ上の恋人を、執拗に追いかけ回して復縁を迫った挙句、最終的に相手の自宅へ押し入って乱暴した末の凶行らしい。
拘束されてからもしきりに殺すつもりはなかったと訴えていたようだが、首を強く絞めれば生き物が死んでしまうことは誰にでも容易に推察出来たはずで――。
全く殺意がなかったと言い逃れるには、彼が犯した『強制わいせつ等致死傷罪』は、余りにも罪が大きかったのだ。
今は温厚で面倒見のいい、だが誰よりも体格がよく、力も強い先輩社員・大滝修也の下へつけて色々学ばせている最中の石矢だが、雇い入れて一ヶ月ちょっと。
その間石矢は無断欠勤もなく、他の社員らともこれと言ったトラブルを起こす気配もない。勤務態度もクソが付くほど真面目に日々をこなしている。
大滝以外の先輩社員らとも、ある程度の節度を保ったうえで和気藹々と和やかな日々を重ねている石矢を見ていると、過去の遍歴自体、実は誤認だったのではないかとさえ感じさせられるほどだった。
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