24.不穏な人影【Side:長谷川 将継】

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 石矢(いしや)恭司(きょうじ)は元々の人懐っこさもあってか、むしろ皆から積極的に可愛がられているくらい。  実際私自身、――前科はともあれ――石矢のことを可愛い新入りだと認識し始めていた。  まぁ実際のところ、私以外で石矢が刑事裁判の末に少年刑務所で二年ばかりの刑期を終えたことを知っているのは、石矢(かれ)と深く関わる大滝(おおたき)のみに限定していることも、皆が新人を受け入れてくれている要因かも知れない。  大滝には自分の下へくる人間に対しての心構えをさせるため、一応に石矢の経歴については話してあるのだが、その大滝にしてもどんな罪を犯して石矢が実刑を受けるに至ったのか……までは詳しく教えていない。  それこそ痴情のもつれが原因で前科一犯だとふわりと話してある程度。  余り前情報が入りすぎると、大滝が石矢に接するとき変に壁を作る可能性があると考えたからだ。  ふたりが色々付き合っていく中で、石矢の方から大滝に事実を話すならそれもまたよし。  何も言わず問題なく過ごせるようならそう言うのもありだと思っていたのだ。  そういう感じで、皆が普通に接してくれるからこそ、石矢も気負わず過ごせているんだと思うし。  もちろんすべての事情を知っている私も、こうして罪を(つぐな)って彼が娑婆(そと)へ出てきている以上、――それこそ石矢が問題でも起こさない限り、前科のことは脳内からリセットして彼に接している。  実際うちの会社には(すね)に傷を持つ人間が多いのも確かだったし、私自身そういう者たちが真の意味で更生・社会復帰するために働ける場所を作ることが大切だと言う信念のもと、彼らを雇い入れているのだ。
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