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まぁもちろん、今まで全く何も問題が起こらなかったかと言えばそんなことはなかったのだが、何か起こるたび、相手にしっかり向き合って真摯に対応することで、案外何とかなって来たから。
私に懐っこく接してくる石矢のことも、長い目で見ようと思っていたのだ。
***
「ああ。久々に熱が出てしんどかったが、幸い今は熱も下がって元気だよ。――急に休んでしまってすまなかったね」
私の方へ身を乗り出すようにして「体調はもう大丈夫なのか?」と問いかけて来た石矢に柔らかく微笑んでみせたら、「……言ってくれたら俺、いくらでも社長の家へ看病しに行ったのに」と唇をとがらせるから。
私はつい苦笑まじりに言ってしまったのだ。
「それは有難い申し出だが心配は無用だよ。何だかんだ言ってもちゃんと看病してくれる人はいたからね」
と――。
途端、石矢が「えっ?」と大きく瞳を見開いて。
その穴を埋めるみたいにすぐそばにいた大滝が「社長、奥さん亡くされてから浮ついた話なんてひとつもなかったですけど……もしかして彼女でも出来ましたか?」と聞いてくる。
「いや、そういうわけじゃないんだ」
さすがの私も、会社で自分がバイセクシャルだなんて明かしたりはしていなかったから。
至極もっともな言葉を投げ掛けられて、曖昧に言葉をにごした。
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