04.拾いネコ【Side:長谷川 将継】

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*** 「近くてすまなかったね……」  自宅に着くなり、私は乗せて来てくれたタクシードライバーに、ワンメーター分の運賃では申し訳ないからと、五千円札を一枚手渡した。 「釣りはいいから……取っておいて?」  言ったら、「いや、さすがにこれは……。逆に申し訳ないです」と恐縮されてしまう。 「ほら、私が連れている彼、結構酔ってるのが分かってたでしょう? もしかしたら車ん中で吐いてたかも知れないのに貴方は快く乗せてくれた。私はね、それが嬉しかったんだ。そのお礼だから気にしないでもらえると助かるんだけど?」  言って、開いたドアから車を降りたら、運転手がすぐさま駆け寄ってきて、意識のない彼を後部シートから引っ張り出すのを手伝ってくれた。  こういう人と人との関わり合いというのが、私は案外嫌いじゃない。  咲江(さきえ)が社交的な性格だったから、彼女との結婚生活の中で、いつの間にか自分もそんな風になっていただけなのだけれど。  こうして社長業をやるにおいて、そういうスキルは結構役に立っていると思っている。 「本当に有難う。また機会があったら指名させてもらうよ」  よいしょっと言いながら見知らぬ若い男を負ぶった状態で礼を言ったら、運転手が「いえ、こちらこそ有難うございました」と、制帽を脱いで頭を下げてくれて。  その礼儀正しい所作に、私は走り去るタクシーのナンバープレートを見詰めながら、次もそこのタクシーを利用しよう、と思った。 ***  我が家は平屋の日本家屋で、いわゆる庭付き一軒家というやつだ。  別に親から引き継いだ古い家というのではなく、咲江と結婚した時に新築した、築十年にも満たない比較的新しい家。  八畳間が三つに六畳と四畳半、それとは別に台所や風呂場、トイレがひとつの一人で住むにはいささか広すぎる住まいは、結局叶いはしなかったけれど、咲江との子が出来た時に役に立つはずの間取りだった。  だから、それこそ一人ぐらい誰かを連れ帰った所で何の支障もない。
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