25.白米にぎりと愛してる【Side:十六夜 深月】

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***  将継(まさつぐ)さんと電話でやりとりをして、昨日僕が買い物に行ったスーパーで待ち合わせをすることになって。  まだ夜になると(かす)かに白い息が出そうな三月の寒空の夜道、スーパーに辿り着くと将継さんがもう来ていて「将継さん!」と少し離れた場所から声を掛けると片手を上げてくれた。 「ま、将継さん、おかえりなさい。お仕事……お疲れ様でした! ……あの、待たせましたか?」 「ちっとも待ってねぇーから大丈夫。――むしろ仕事終わりに深月(みづき)と待ち合せなんて幸せ以外の何もんでもねぇけど?」  ククッと喉を鳴らす将継さんに(な、何かデートの待ち合わせみたいだ! ち、違う! 僕は白米にぎりだから変に意識しているだけだ……)とぐるぐると思考を巡らせていると彼は僕の腕を引いた。 「ほら、寒いから早く中に入るぞ?」  言って、腕を掴まれたまま店内に足を踏み入れる。  僕は率先してショッピングカートにかごをセットして「ぼ、僕に押させてください! 将継さんの買い物は……僕が……守ります!」と言うと吹き出されてしまった。 「深月はどっちかってぇーとあっちだろ?」  ……と、指差されたのはチャイルドシート付きのショッピングカートで――。 「ぼ、僕は子供じゃありません!」  思わず唇を尖らせると将継さんは僕の(すぼ)めた唇を親指と人差し指で(つま)んで「冗談」と笑って見せた。  夕飯の買い出しにはやや遅い時間のせいか店内に人はまばらだったけれど、果たして僕と将継さんはどういう風に見られているだろう?なんて考える。 (友達? 兄弟? ま、まさか……! 恋……い、いやいやいや! ないないない! 何を考えてるんだ! 将継さんが『愛してる』とか言い出すから今日の僕は何だかおかしい!)  一人百面相をしている僕は内心の葛藤に(せわ)しなく、彼がまさに先程検索していた慈愛に満ちた瞳で見つめてくれていることにすらも全く気付けていなかった。
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