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カートをしっかりと押しながら、とりあえず二人で連れ立って生鮮コーナーを見て回っていたのだけれど、将継さんが精肉が並ぶ前で立ち止まって。
「――で、深月は何が食いてぇの?」
「た、食べ物……ですか?」
(食べ物……食べ物……僕は……!)
「焼肉おにぎりに……なりたいん、です!」
……と、一日中わだかまっていた心の中の声を思いっきり口からこぼしながら激すると、将継さんはポカンとした表情で僕を見つめた。
「焼肉おにぎり?」
(はっ! しまった! 心の声が家出した!)
「な、何でもありません……。僕は白米にぎり、ですから……」
将継さんがじっと僕を見つめてくるので、また『愛してる』と言われた朝の出来事を思い出して耳まで熱くしてしまって。
「今日の深月……何か変じゃね?」
「えっと、……今日の僕は焼肉になりたい気持ちで……いっぱいなんです!」
「焼肉が食いてぇってこと?」
いや、焼肉が食べたいんじゃなくて焼肉になりたいんです!と言っても意味不明だ……と慌てて気付き、「や、焼肉なんて贅沢……じゃないですか?」とあまりお金を使わないで欲しいのだと暗に訴えたのだけれど――。
「深月が食いてぇなら何でも構わねぇよ? 遠慮すんな。――そうだな、じゃあ一通りの肉揃えっか。後、明日の朝飯とか深月の昼飯とか夕飯の買い物もしちまいてぇな」
「……す、すみません。たくさんお金を使わせて……。僕もすぐ働いて、必ずお返しします、ので!」
「だから遠慮すんなって。深月のことは私が閉じ込めておきてぇーくれぇなんだから。つーかもう一緒に住まね?」
サラッと爆弾発言を、しかもこんな主婦たちがそばにいる中で言われてしまい僕はたちまち頬に熱を集めてしまう。
(今そこにいるご婦人に聞かれてたんじゃないかな⁉ 将継さん⁉)
「い、一緒に住んだら……きっと飽きちゃい、ます」
俯いてぼそぼそと返事をすると将継さんはまたククッと喉を鳴らして、愉快そうに俯いている僕の顔を下から覗き込むように見つめてきた。
「深月が私に飽きることはあっても、私が深月に飽きることはねぇわな。言ったろ? 愛してるって」
(ま、将継さん! またご婦人が聞いてますよ⁉)
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