680人が本棚に入れています
本棚に追加
/375ページ
一通りの買い物と会計を済ませて、(もっと太れとお菓子まで買い与えられた……子供か!)将継さんが品物をエコバッグに詰めるのを手伝っていた時だった――。
突然、背後から「社長!」と若者の声がして。
振り返った僕は(ん? ……誰?)と思ったのだけれど将継さんは驚いた顔で「石矢⁉」と声を掛けていた。
どうやら将継さんの知り合いらしい。
二人が何やら仕事絡みだと思われる会話をし始めたので(会社の従業員とかかな?)と、僕はコミュ障を発揮しまくって将継さんの背後にぴたりと隠れた。
僕よりも随分歳下そうに見えるけれど、どこか人生の修羅場をくぐって来ました感が溢れる妙な貫禄があって尻込みしてしまう。
やがて彼が将継さんの後ろに隠れる僕に視線を転じて「社長の拾いっ子ってこの人っすか? すっげぇ美青年っすね?」と、どこか焚きつけるような瞳を向けてくるので僕の視線は泳ぎまくりだ。
「――ああ、深月。コイツは石矢恭司と言ってな。私の会社の従業員なんだ」
石矢さんと呼ばれた青年は屈託のない笑顔で「どうも、石矢恭司です。十八っす。社長にはいつもお世話になってます」と握手を求めてくるから。
(じゅ、十八! 僕の方が子供っぽい……)
「は、初めまして……。い、十六夜深月です。……二十七歳……です」
おずおずと差し出された手を握り返すと何故だか手指に力を込められて窺うように「深月さんと社長ってどういう関係なんすか?」と訊ねてきた。
(いきなり下の名前で呼ばれた! 待って! 距離感が行方不明!)
「ぼ、僕は……その……将継さんの……えっと、拾われ猫……です」
将継さんが「ぶはっ」と吹き出して、石矢さんは訝し気な瞳を向けてくるので僕はあわあわと、どうしたら良いのかと将継さんに助け舟を求める視線を送った。
すると石矢さんはまたもや僕に挑発的な目を向けて。
「俺も社長に拾われたんすよね。深月さんのこと、親近感が湧いてきたなぁ。もっと知りたいんすけど……社長、紹介してくださいよ?」
(ど、どうしよう……。恐怖の歳上男性ではないけれど、またもや僕とは違う人種だ……。これがパリピ……!)
「あんまし深月との時間を邪魔されたくないんだが……折角だから石矢も焼肉食ってくか?」
(将継さぁぁぁぁぁん!!)
最初のコメントを投稿しよう!