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「あー。まぁ……、今日だけは許してやるよ。けど……会社ではちゃんと節度を持った呼び方をするように」
ほぅっと溜め息を落とすと、私はしぶしぶ石矢が自分をファーストネームで呼ぶことを承諾した。
深月がそんな私の態度をどう受け取るか、ちょっぴり気にしながら。
***
私が玄関扉をガラガラと引き開けるなり、私のすぐ背後に割り込むようにして、石矢が深月よりも先に土間へ足を踏み入れてきた。
「お邪魔しまぁーす」
深月は石矢のイケイケドンドンな雰囲気に、完全に飲まれたようで。
石矢の後からそろそろと家の中へ入ってくる。
それがたまらなく申し訳なく思えて。
「こら、石矢。この家は今、私と深月の家なんだ。家主を押し退けて先に入るやつがあるか」
すぐさま石矢に苦言を呈したら、「すみません。何か俺、将継さんの家に入れると思ったら気が急いちゃって」と素直に頭を下げてくる。
「なぁ石矢。深月にもちゃんと謝ってくれ」
それでも私の方を向いて発せられた謝罪の言葉は何か違う気がして。私はそう付け加えずにはいられなかった。
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