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「あー。えっと……深月さんもすんません。けど――深月さんはそんな細かいことを気にするよーな心の狭い人じゃないっすよね?」
ただ謝ってくれればいいものを、どこか威圧的に深月へそんな言葉を投げ掛けてくる石矢に、私は違和感を覚えてしまう。
会社では先輩社員たちに対してこんな態度を取ることなんてない男なのに。
「なぁ石矢。そういう態度を取られんの、すっげぇイヤなんだけど……。深月に敬意を払えねぇようなら焼肉の誘いは引き下げさせてもらうけど、いいか?」
冷ややかに石矢を見詰めたら、石矢が一瞬だけ泣きそうな顔をして、今度は深月にガバリと頭を下げた。
「深月さん、すんません! 俺、将継さんから大切にされてるのを見て、何か羨ましくて。俺だって同じようにされたいのにって……単なる嫉妬っす。ホントごめんなさい」
「あ、あの……僕は大丈夫だから……えっと」
深々と頭を下げる石矢に、深月がオロオロしながら私を見詰めてくるから。
「もういいよ、石矢。ちゃんと深月を敬ってくれるなら私もこれ以上は言わん。とりあえずスリッパ出したからそれ履いて上がれ」
深月と私のモノとは明らかに違う、来客用のスリッパを石矢に勧めると、石矢は一瞬だけ寄り添うように並べ置かれた私用と深月用のスリッパに視線を投げ掛けてから、大人しく出してやったスリッパに足を通した。
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