27.嘘吐いてごめんなさい【Side:十六夜 深月】

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 立ち尽くしてしまった僕の状況に気付いたのだろうか、将継(まさつぐ)さんが背後を振り返って「こら、石矢(いしや)。そこ、深月(みづき)の席な?」と(いさ)めてくれた。 「椅子に指定なんてあるんすか?」 「その座布団の椅子は亡くなった妻の大切な特等席なんだ。深月以外は座っちゃいけねぇーの」 「何で深月さんなら良いんっすか?」  訝し気に訊ねる石矢さんに将継さんは少し言葉に詰まってしまったようなので、「あ、あの! ……僕なら、どこでも大丈夫……ですから……」と慌てて取り繕ってみたけれど表情に思いっきり出てしまっていたんだろうか、将継さんが少しだけ顔を歪めた。 「深月は私が守ってやんなきゃいけねぇー大切な子なんだ。プライベートは分けるって言ったの石矢だろ? 私にとっても深月はプライベートっちゅーわけだから変に追求すんな」  石矢さんが納得がいかないといった様子で唇を尖らせるので、僕は何故石矢さんはこんなに将継さんに熱心(あつい)んだろうと不思議に思ってしまう。 「はーい、わかりました! もう、深月さん、一緒にリビングで待たないっすか? 将継さんがつれないから深月さんと拾いっ子同士で話したいっす。俺、深月さんにも興味あるんで」 「えっ……!」 (石矢さんと二人っきりで⁉ だ、大丈夫かな……。僕はちゃんと話せるだろうか……) 「深月、大丈夫か? この子は人見知りだから……石矢、あんまし変なこと言うなよ? 私も米()いだらすぐ行くから」  いや、全然大丈夫じゃない……大丈夫じゃないけれど将継さんの大切な従業員なんだから僕だって少しは話せるようにならないとな……と、「だ、大丈夫です。じゃあ僕……二人でリビングで、待って、ますね?」と後ろ髪を引かれる思いで石矢さんとキッチンを後にした。 (将継さん! フルマッハ米研ぎで(ただ)ちに来てくださいね!?)  そんなことを切に願いながら、やっぱり勝手知ったる我が家とばかりに先陣を切ってリビングに向かう石矢さんの背中を追った。
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