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リビングで石矢さんと座卓を囲むと、彼は急に面白くなさそうな顔をするので、どうしたんだろう?と僕は視線を泳がせてしまう。
「深月さんって、将継さんに拾われてどのくらいなんすか?」
「えっと……今日で三日目です」
返事をすると石矢さんはたちまち瞠目して僕を凝視してくるので、居た堪れない気持ちになって、視線はバタフライよりも早く泳ぎ続ける。
「三日目!? たった三日であんなに深月深月って大切そうなんすか? 俺なんか拾われて一ヶ月ちょいも経つのに、将継さん一向に俺を懐に入れてくれないっんすよ……。俺はこんなに尊敬して、何なら一生着いて行きますって感じなんすけど、深月さんは三日で将継さんのお気に入りなんすね。妬けるなぁ……」
どう返事をすれば良いものかオロオロしてしまっていると、不意に座卓で九〇度の角度で座っている石矢さんが僕の顎を親指でクイッと持ち上げて来た。
「い、石矢さん……?」
「この綺麗な顔で誘惑でもしてんすか? 将継さん独占して調子に乗らないでくださいよ。俺は出会ってたかが三日の深月さんよりずっと将継さんのことを知ってるし慕ってるつもりなんっすけど……。邪魔してくるやつは傷付けたくなるなぁ……。将継さんの一番は俺にして欲しいんで」
何も言えないままただ石矢さんの瞳を覗き込んでしまうと、彼は顎に添えていた親指を退けた。
(一番ってどういう意味だろう……?)
憧憬の念が行き過ぎているのだろうか……それとも恋愛対象として将継さんを見ているのだろうか……。
そこで――。
「深月ぃー、石矢ぁーなんもないか?」
将継さんがリビングに戻ってくるなり、石矢さんは今まで僕に向けていた冷たい眼差しから一変して尾を振る犬のように屈託なく「深月さんと色々話せて楽しいっす」と笑って見せた。
すると将継さんは少し困ったような顔を僕と石矢さんに向けてくるので(何かあったのかな?)と琥珀色の瞳をそっと覗き込む。
「いやー、実はさ……私としたことが焼肉のタレ切らしてたんだわ。ちょっとそこのコンビニまで歩いて行ってくっから二人で待っててくれねぇーか? 十五分で帰る」
(ま、将継さん……本気ですか……?)
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