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28.違和感【Side:長谷川 将継】
焼肉のタレを買い忘れていたことに気が付いて思わず妻が存命な頃の調子で初対面のふたりを家に残して出て来てしまったが、考えてみたら今の我が家には緩衝材のようにふわりとした咲江がいるわけではない。
石矢の前科を思うと何とも言えない焦燥感に駆られて、自然店までの道のりを歩む足が速くなった。
最初はさっき深月と一緒に行ったスーパーまで足を延ばそうと思っていたけれど、急き立てられるような胸騒ぎに、そんな気になれなくて。
結局スーパーよりもはるかに近場のコンビニに立ち寄った。
選べる種類も少なければどのタレも総じて値段が割高。
だけど店内が空いていたこともあり、会計は先程のスーパーより格段スムーズに済んだ。
買い物袋を持参していなかった私は、お買い上げシールを貼ってもらった瓶を裸のまま手に持つと、足早に家路を急ぐ。
二人には十五分で戻ると伝えたけれど、行先を変えたことで少しだけ時間が短縮できたはずだ。
さすがにほんの一〇分にも満たない短時間のうちに、石矢が深月に何か危害を加えるとは思いたくなかったけれど、考えてみれば先のスーパーで私と深月の前に姿を現した時から石矢の様子がいつも会社で目にしている彼とは違うような気がしてならなかったから。
(胸騒ぎがする)
そう。今日の石矢は、深月をいちいち蔑ろにするような行動や、マウントを取るような言動が目立っていたように思う。
私が口出しすれば素直に謝りはするけれど、それにしても取り繕った感のある、どこか表面的なものを感じていたと言ったら考え過ぎだろうか。
会社で先輩社員たちにそんな素振りを取ったことは一度だってないのに。
(咲江、頼む。――二人を見守っていてくれ)
最愛の深月だけの無事を祈らず、石矢が暴挙に出ないことも亡き妻に願ってしまうのは、私の甘さだろうか。
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