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「ああー、お腹いっぱいです。なんか満腹で眠くなってきました。……俺、今日はこのまま泊まらせて頂きたいなぁとか思うんっすけどダメですか?」
しこたま食って腹をさすりながら石矢が私に甘えるようにそう言ってきたけれど、そこまで面倒を見てやるつもりは毛頭ない。
と言うより――。
(深月、ごめんな。早いとこコイツ、帰らせるからもうちっと待ってくれな?)
心の中でそんなことを思わずにはいられない。
深月はきっと、石矢がそばにいる状態では何も話してくれないから。
「――なぁ石矢。明日も早くから仕事だろ? タクシー呼んでやるからさっさと支度しろ」
最初は石矢を送ってやるつもりで、アルコールには一切口をつけていなかった私だったけれど、石矢を送って行く間深月を一人にすると思うと、そんな気になれなくて。
深月と二人きりならそんなこと気にせず楽しく酒を飲めていたんだがな?と、石矢の存在を軽く疎ましく思うくらいは許されるだろうか。
スマートフォンを手にタクシーの手配をさっさと済ませた私に、石矢が唇をとがらせた。
「えー? ホントに泊まらせてくれないんですかぁ? こんなに眠いのに」
一刻も早く深月と二人きりになりたい私にとって、石矢のこの言葉は結構カチンときて――。
「なぁ、石矢。飯まで食わしてやって……さすがにそこまでしてやる義理はねぇよ。いくらプライベートとは言え、私は石矢に無礼講まで許した覚えはない。石矢、お前、今日は雇用主と従業員の境界線を越えてき過ぎじゃねぇか?」
この子には厳しめなくらいハッキリと告げた方がいい。
「ほら、早くしねぇとタクシー来ちまう」
そう判断した私は、苛立ちも手伝ってぶっきら棒に言うと、石矢に帰り支度を急がせた。
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