28.違和感【Side:長谷川 将継】

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*** 「――ねぇ将継(まさつぐ)さん。何で深月(みづき)さんには俺には許されないこと、たくさん許してるんですか?」  タクシーに近付きながら「深月さんばっかりズルイです」と付け加えてくる石矢(いしや)に、私は運転手に万札を手渡しながら石矢のアパート(行き先)住所を告げて、小さく吐息を落とした。 「そろそろ呼び方を社長に戻せ。――あとな、深月はうちの会社の従業員じゃない。最初(はな)から石矢とはスタートラインが違うんだ。どうもお前は深月と自分を同列にとらえているようだが、私にとっては全然違う。あとな、一応言っとくが……もし深月に何かしたら。その時は容赦しねぇから……。そこだけはしっかり覚えとけ」  後部シートに座る石矢にそう告げると、ドライバーに「お願いします」と言って身を引いて、ドアを閉めてもらった。 *** 「深月……」  恐らくいつもの深月なら客が帰る時、私と一緒に外まで見送ると思う。  それをしなかったと言うことは、きっと私がいない間に石矢と何かあったのだ。  そう判断した私は、キッチンの定位置――咲江(さきえ)の椅子――に座ったままの深月に呼び掛けてそっと肩に手を載せた。  深月は私の呼び掛けにビクッと肩を跳ねさせると、「あっ、あの……ごめんなさい、将継さん。僕……石矢さんのお見送りに出なくて」と瞳を揺らせる。 「んな事は(こたぁ)どうでもいいんだよ。――なぁ深月。私がいない間に石矢と何があった? どうしても言わないつもりなら無理矢理確かめるけど……いいか?」  言って、座ったままの深月と視線を合わせるように彼のすぐ前に(ひさまず)いて真正面から深月を見詰めたら、深月がヒュッと息を詰めたのが分かった。
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