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「――ねぇ将継さん。何で深月さんには俺には許されないこと、たくさん許してるんですか?」
タクシーに近付きながら「深月さんばっかりズルイです」と付け加えてくる石矢に、私は運転手に万札を手渡しながら石矢のアパート住所を告げて、小さく吐息を落とした。
「そろそろ呼び方を社長に戻せ。――あとな、深月はうちの会社の従業員じゃない。最初から石矢とはスタートラインが違うんだ。どうもお前は深月と自分を同列にとらえているようだが、私にとっては全然違う。あとな、一応言っとくが……もし深月に何かしたら。その時は容赦しねぇから……。そこだけはしっかり覚えとけ」
後部シートに座る石矢にそう告げると、ドライバーに「お願いします」と言って身を引いて、ドアを閉めてもらった。
***
「深月……」
恐らくいつもの深月なら客が帰る時、私と一緒に外まで見送ると思う。
それをしなかったと言うことは、きっと私がいない間に石矢と何かあったのだ。
そう判断した私は、キッチンの定位置――咲江の椅子――に座ったままの深月に呼び掛けてそっと肩に手を載せた。
深月は私の呼び掛けにビクッと肩を跳ねさせると、「あっ、あの……ごめんなさい、将継さん。僕……石矢さんのお見送りに出なくて」と瞳を揺らせる。
「んな事はどうでもいいんだよ。――なぁ深月。私がいない間に石矢と何があった? どうしても言わないつもりなら無理矢理確かめるけど……いいか?」
言って、座ったままの深月と視線を合わせるように彼のすぐ前に跪いて真正面から深月を見詰めたら、深月がヒュッと息を詰めたのが分かった。
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