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29.窒息してもいいから【Side:十六夜 深月】
「――私がいない間に石矢と何があった? どうしても言わないつもりなら無理矢理確かめるけど……いいか?」
ダイニングチェアに座り込んだ僕の前で跪いた将継さんに、真正面から見つめられて告げられた言葉に僕はびくっと肩を震わせてしまって。
「……あ、あの……僕、本当に何も……」
そこまで呟いたら膝の上に載せていた手が震えてしまって、それに気付いたんだろう将継さんは僕の手をギュッと握りしめた。
殴り蹴られて痛む腹部と背中と、正面に座る石矢さんが楽しそうに話しながらも牽制するような視線を投げ掛けてくるせいで、ろくに食事も出来なかった僕に向けられていた心配そうな将継さんの瞳には気付いていた。
「深月」
力強い、けれどどこか怒気のようなものを孕んだ声に、〝何かあった〟のは完全にバレているのだろうことはわかったけれど僕は口を開けなかった。
黙りこくってしまった僕に、将継さんは痺れをきらしたように立ち上がって――。
椅子に座る僕の太腿の裏に抵抗を許さない素早さでスッと手を差し込んでそのままひょいっと横抱きに抱え上げられてしまった。
「ま、将継さん!? ――うっ……!」
持ち上げられた身体を支える腕が蹴られて痛む背中に重力が掛かって思わず呻き声を上げてしまうと、将継さんは眉間に深く皺を刻んだままズカズカと大股で僕を抱えたまま歩き出して。
僕は背中が痛むので思わず将継さんの首に両腕を絡めて抱き着き、背中に掛かる負荷をやり過ごすようにしがみつく。
何か壊れ物を扱うようにそっと身体が降ろされたのは、僕の部屋に宛がわれている布団の上だった。
組み敷かれて眼前に近付いた将継さんが僕の細い首に手のひらを這わせながら苦々しげな顔をするのでギュッと目を瞑ったら耳元で吐息のように囁かれた。
「ひょっとして……背中痛ぇーのか?」
その言葉に僕はびくんと全身を震わせてしまう。
「……あ、あの、大丈夫です……っ、どこも――」
痛くないですと言う前に、気が付いた時にはもう僕のカットソーを将継さんが首までまくり上げて目を見開いていた。
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