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30.落とし前【Side:長谷川 将継】
深月にあてがった部屋の中――。
何となく心配で、私の腕の中で眠りについた深月をゆるりと抱いたまま一緒に布団へ入ったのだが、どうやらいつの間にか寝落ちしていたらしい。
私は、朝方深月が身じろぐ気配で目を覚ました。
ふと見れば、ぽやんと寝ぼけた様子の深月と間近で目が合って、年甲斐もなく愛しさに心臓がトクトクと嬉し気に跳ねる。
深月が元気ならこのままキスをして、彼のなめらかな肌の感触を確かめたいところだ。
だが、深月の身体中に赤黒く変色した鬱血痕があることを知っている私は、欲望を押し殺して深月の後頭部をゆるゆると撫でながら問いかけた。
「なぁ、深月。動くのしんどいかも知んねぇけど……今日は朝一で私に付き合ってくんねぇか?」
「……えっ?」
一晩中深月の身体へずっと触れていて気付いたのだ。
彼の身体が少し熱を帯びていることに。
今のところ高熱にこそなっていないが、もしかしたら今から熱が上がるかも知れない。
「あ、あの、……どこか……行きたいところでも……ある、んですか?」
恐る恐ると言った調子で深月が問い掛けてきたのは、恐らく彼自身、私が何を言おうとしているのかある程度察しているからだろう。
「ああ」
頭を撫でる手を止めないままにそう返したら、
「でも……将継さん、今日はお仕事……じゃなかった、です、か?」
言って、深月が不安そうに瞳を揺らせる。
深月が今問い掛けてきたように、今日は平日で、本来ならば私は仕事へ行く日だ。
そんな日に朝一でどこかへ行きたいから付き合えだなんて、普通のお誘いじゃないことくらい、いくら何でも分かるだろう。
私は小さく吐息を落とすと、覚悟を決めたように深月を真正面からじっと見詰めた。
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