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「行きてぇのは病院だ……。石矢に殴られたトコ、ちゃんと診てもらっとこう? ――な?」
「で、でも……そんな大げさにしなくても、僕――」
平気なので、とか大丈夫なので……とか続けようとする深月の言葉を遮ると、私は口早に言葉を重ねた。
「あのさ、深月からはあんま見えねぇかもだけど……深月、腹の方だけじゃなく背中側もすげぇ痣だらけになっちまってんだよ。身体だって何となく熱っぽいの、自分で気付いてるか? 万が一ってこともあるし……病院で診てもらっておいてくれたら私が安心出来るんだ。――なぁ、深月。私を助けると思って、……頼むから付き合えよ」
本当なら、今すぐにでも救急外来に引っ張っていきたいくらいだ。
だが、今の反応を見ても分かるように、あまり仰々しくされることを、深月は望んでいない……。
だが、私にだって、どうしても譲れないことがあるのだ。
「――それに……正直な話、深月を守るために診断書も取っておきてぇんだよ」
一般的に救急では診断書までは作ってもらえないはずだ。
とりあえず現状の深月は吐き気などもなさそうだし、熱もそれほど高くない。
このままでいけば緊急を要することはないだろう。
だとしたら、なるべく大人しくやり過ごしたいと思っていそうな深月の性格を鑑みるに、二度も病院へ連れ出すよりは病院が開院する時間を待って……診察時間内に外科を受診するように手配してやった方がいい。
本音を言うと深月の肌を、――例え医者とは言え――他の人間に見せるのは物凄ぇ嫌だ。
だが、そんなことを言っていられる状況ではないのは明白だし、何より証拠を残しておくことは石矢に罪を認めさせる上での最重要課題だったから。
私は独占欲や嫉妬心をグッと抑え込むようにして、深月にそう提案したのだった。
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