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言いながら予め胸ポケットに忍ばせておいた結束バンドで石矢の親指同士をくっつけるようにギュッと束ねると、小さく吐息を落とした。
人間は後ろに回した手の親指だけを固定すると、それだけで腕の自由が効かなくなる。親指以外の指が使える分抵抗出来そうで抵抗出来ない歯痒さが倍増するのだが、まさか私が悪意を持って自分の自由を奪っただなんて露ほども思っていないんだろう。
石矢がベッドにうつ伏せたまま、私を振り返るように見上げてきて、「手慣れてませんか?」とうっとりとつぶやいた。
「まぁ、うちの会社はさ、やんちゃなのも多いから……こういうのは一通り知ってんだわ」
うんざりしたように告げて、私はベッドから離れると、部屋の入口に足を向ける。
「将継、さん?」
不安そうに私を呼ぶ声がするけれど知ったこっちゃない。
そのまま部屋の入り口扉を開けると、廊下に待機していたスーツ姿の男を部屋の中へ招き入れた。
「相良、急に呼び出して悪かったな」
「長谷川の頼みとあっちゃあ断れんだろ」
「人をボスみたいに言うのはやめてくれないか?」
「実際そうじゃないか。俺は長谷川には絶対服従してるつもりだ」
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