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31.恋着【Side:十六夜 深月】
将継さんに連れられて行った病院で内臓や骨には異常がないので安静にするようにと言われ、彼が出勤するのを見送るとスウェットに着替えて布団に潜り込んだのだけれど。
お腹や背中はまだ鈍痛がして腫れているし、眠ってしまった方がいいのだとはわかるけれど、頭の中が混濁していてとても眠れそうになかった。
どうして――。
冷静になって考えてみると、どうして僕は昨晩将継さんに半ば無意識に『ギュッとして欲しい』だなんて言ったのだろうか。
そして、彼は何故今日は帰りが遅いと言ったのだろうか。
石矢さんから受けた暴行で心が弱っていて、つい何でも許して甘やかしてくれる優しい将継さんに縋ってしまった。
彼が今日、帰りが遅くなると言ったのはやっぱり石矢さんが絡んでいて、石矢さんは何かお咎めを受けてしまうのかもしれない。
(全部僕が弱かったせいだ――)
将継さんは『全部私のせいだ』と言ったけれど、そうじゃない。
将継さんが無条件でくれる温もりに浸りきって、離れようと口では遠慮しつつも身体と心は上手く連携を取ってくれなくて、僕は彼から離れられないでいる。
自分に言い訳しつつも、将継さんに甘えていた。
そのせいで彼を慕う石矢さんを怒らせて、もしかしたら石矢さんはまた路頭に迷ってしまうのではないだろうか……いや、将継さんは病院で診断書まで依頼していた。
僕は何も心配しなくて良いと言われたけれど、ひょっとしたら石矢さんは路頭に迷うどころでは済まされないのかもしれない。
思わず指で唇に触れてみる。
そこはまだ、将継さんの柔らかな唇の感触を鮮明に覚えていて、意識してしまえば微かに触れ合った吐息を思い出して熱すら発しそうだ。
(正直に言って……ドキドキする……)
石矢さんがどうなってしまうのかを心配する以上に、僕は将継さんが石矢さんを咎めることによって、逆上した石矢さんが今度は将継さんにまで何かしないだろうかが心配なのだ。
結局のところ、石矢さんを庇いつつも全ての終着点は将継さんの心配なんだ――。
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