31.恋着【Side:十六夜 深月】

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***  お昼になったので、僕はそろりそろりと布団から出てリビングの座卓の上に置いてあった将継(まさつぐ)さんが買ってくれたお昼ご飯のおにぎりを手のひらに載せた。  食欲は全くなかったけれども、食べないでいたらまた彼を心配させてしまうだろうとおにぎりのフィルムをぴりぴりと破く。  将継さんに『具は何が良い?』と訊かれて僕は躊躇(ためら)いなく焼肉おにぎりを(割高で申し訳ないけれど……)選んだ。  彼は『昨日焼肉食ったのに?』と不思議そうに訊ねてきたけれど、今の僕は恋愛のプロレベル・焼肉おにぎりになりたかったのだ。  だけど――。  完食したってちっとも胸のつかえは取れないし、ただただ将継さんは大丈夫だろうかと心配で仕方がなくて。  何度もスマートフォンに彼の連絡先を表示させてはメッセージを送ろうとしたけれど、送ることは出来なかった。 (仕事の邪魔しちゃいけないし、寂しいなんてワガママも言えない……)  もしも、これからしばらく将継さんのお世話になるのであれば、毎日こんな思いをしなくてはならないのだろうか。 (今は身体が痛いから弱気なだけかな……?)  けれども、そう考えたら酷く胸が締め付けられた。  将継さんに(とろ)けそうなほど甘やかされているうちに、気丈に振舞っていた心は随分弱くなってしまっているようだと痛感させられて。  彼はどれだけ知らなかった感情(きもち)を僕に教え込ませてくるのだろう。  一度に注ぎ込まれた想いを受け止められるだけの器が僕にはなくて、将継さんがくれる愛情は収まりきらない心臓を突き破って溢れ、知ってはいけない衝動が身体中を巡っているようだ。  感慨の海に(ひた)っていると不意にスマートフォンが着信を告げた――。
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