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鳴動するスマートフォンのディスプレイを覗き込むと、病院の名前が表示されていたので慌てて「もしもし!?」と先生の声を待った。
『もしもし? 深月くん? 連絡ありがとう。いつ病院に来られるか決まったのかな?』
「あっ……、先生! 今ちょっと怪我してて、病院にはまだ行けそうになくて……。すみません。今、お時間大丈夫ですか? 聞いて欲しいことがあって連絡しました」
僕の言葉に電話の向こうで先生が少し息を詰めた。
『怪我って何があったの? 聞いて欲しいことって何かな?』
「怪我はちょっと不注意で身体をぶつけちゃって打撲しただけなので、しばらくすれば治ります。聞いて欲しいのは気持ちのことで――」
(僕、また先生に嘘吐いた……)
言葉を切った僕に先生は無言で続きを促してきたので、はたと我に返って慌てて散っていた意識を取り戻す。
「先生……。僕、自分がわからないんです。元々わかってなかったけど最近はもっとわからなくて。――ある人が心にずっと浮かんで離れなくて、あったかくて優しくて、ひたむきに寄せられる気持ちが嬉しくて。でも、どうやって応えたらいいのかわからなくて、もどかしくて……。この気持ちは何ですか?」
『それは、誰に対して言っているのかな? 反応があったって言っていた女の子?』
「ち、違くて! その……先生とかがくれる優しさです」
『先生、とか? まぁ、恋着……じゃないかな? それを先生に向けてくれているなら嬉しいんだけどね』
「れんちゃく……ってなんですか?」
『そうだなぁ。深月くんの得意なスマホで調べてごらん? 怪我が治ったら、また先生にいつ病院に来れるか連絡して? じゃあ、僕は次の患者さんとカウンセリングがあるからこれで切るね? 連絡待っているよ』
それだけ言って切れてしまった電話を耳に当てたまましばし固まってしまったけれど、慌ててスマートフォンでウェブブラウザを開いた。
(れんちゃく? 恋着……? これかな?)
――忘れようにも忘れられないほど、恋い慕うこと。恋してその人に執着すること……。
それって――。
(僕が将継さんに抱いている気持ちは〝恋〟で、僕が先生に向ける気持ちが〝恋〟だったら先生は嬉しいってこと……? ――どっちも両想いってこと……?)
一体自分の身に何が起こっているのかわからず、僕はその場に呆けたように立ち尽くしてしまっていた。
僕の想いは……。
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